クリティカル・シンキング

Presented by Takuto YANAGIDA.
Updated: April 20, 2008.

おことわり

この文書は北海道大学の全学教育科目である情報学Iの実習テキストを作成するにあたって書いた原稿です. しかしながら,実際には採用されることがなかったため,ここにほぼそのまま掲載します.

はじめに

討論を行う際は,自分の意見を論理的に述べる必要がある.また,相手の意見が論理的に正しいのかを判断し,その上で意見を理解し,反論したり同意したりしなければならない.レポートや論文を書く際も同様に,常に論理的な思考を心がけていなければならない.

クリティカル・シンキング(批判的思考)とは,物事を考え,発言する際に,自分の頭を使って論理的に,そして対象を鵜呑みにするのではなく,疑念を持って思考しようとする態度を表す言葉である.批判的思考は情報社会において,特にメディア・リテラシーの観点から,非論理的,非科学的で不正確な情報から身を守るために重要である.

ここでは,James Lettによる,A Field Guide to Critical Thinkingについて紹介する.これには,主にニセ科学を見分けるためとして次の6か条の指針が挙げられている.

6か条の指針

  1. 反証可能性(Falsifiability)

    ある主張が偽りであることを証明する証拠(反証)を思い浮かべることが出来るか?たとえば,「人間の寿命は200歳未満である.」という主張が偽りだと証明するには,「200歳以上の人間」を証拠として連れてくればよい.しかし,「あなたの前世は○○である」という主張は偽りだと証明する証拠は思いつくだろうか.思いつかないならば,この主張は反証可能性に違反している.

  2. 合理性(Logic)

    ある前提がすべて正しく,かつそこから唯一の結論しか出ないか?例えば「すべての犬はノミを持っている」と「チョビはノミを持っている」という前提から,「チョビは犬である」という唯一の結論を出すことはできるか.前提が正しくても,ノミのついたチョビという名前の猫が登場すると,話の筋が通らなくなる.

  3. 包括性(Comprehensiveness)

    主張にとって都合の良いもの,悪いものも含めて,すべての証拠を包括的に採用しているか?例えば「改名させて芸能人の人気を上げることができる」と主張し,例を挙げる人がいる.しかし,その人は改名によって人気の下がったその他多くの例を無視していないか.無視しているならば包括性に違反している.

  4. 公平性(Honesty)

    主張を肯定するもの,否定するものであっても,検証された証拠は自己欺瞞なく受け入れているか?主張を否定する証拠が示されたのに「そんなもの関係ない」と言って受け入れないのは,公平性に違反している.

  5. 再現可能性(Replicability)

    証拠が実験的結果による場合や,偶然によるものと説明される場合,追加実験によっても再現されるか?物事には偶然が付きまとう.たとえば,「人の未来を予言できる」という主張があり,実際に1人の未来を的中させたとする.しかしながら,同じ条件でほかの何人もの未来を的中させることができなければ,1人の的中は偶然に他ならない.

  6. 十分性(Sufficiency)

    主張を信じるのに十分な証拠がそろっているか?重要なことは,証拠を示す責任は主張している人にあること,突飛な主張には特別な証拠が必要となること,権威や証言に基づく証拠は無意味であるということである.例えば「○○大学△△教授が推薦している」とした健康食品が問題になったこともあった.

なお,クリティカル・シンキングに関する多くのウェブサイトや書籍があるので,調べてみるとよい.

参考文献