論文の書き方

Presented by Takuto YANAGIDA.
Updated: October 13, 2009.

論文を執筆するときに気をつけたいこと,知っておきたいことを,これから初めての論文である卒業論文を執筆する人に向けてまとめました.いよいよ論文提出の日付も確定し,いざテキスト・エディタを開いてみたものの,どこから手を付けたらいいのか分からない人には役立つと思います.

執筆の流れ

  1. 書きたい内容,書くべき内容をまとめる
    1. 第1章「はじめに」を書く
    2. 最終章「おわりに」を書く
    3. 絵(スケッチ)を並べる
    4. アブストラクトを書く
  2. アウトラインと本文を考える
    1. 順序を決める
    2. 必要な内容を箇条書きにする
    3. 本文を書く
  3. 繰り返し見直す
    1. 構造とトピック・センテンス
    2. 初出用語
    3. チェック・リスト

書きたい内容,書くべき内容をまとめる

第1章「はじめに」を書く

論文のはじめに書かれる「はじめに」はその研究の目標としていること,すなわち何のための研究なのか,そして,研究として何を行い,結果としてどうだったのか,その全てが含まれます.ですので,その研究の意義や目標,課題を考えるために,研究がまとまる前に書いてみることをおすすめします.書いてみて初めて,話(ストーリー)が繋がらないことや説明の根拠がないことに気づくことがあります.早めに気づければ,追加の実験を行ったり,説明のためのお話を考えたりと,気づいたことを研究本体の改善に生かすことが出来ます.

次のような構成はいかがでしょうか.

  1. 背景(その技術分野の客観的なまとめと重要さ)
  2. 問題意識(その論文が解く問題をできるだけ厳密に提示)
  3. 関連研究(関連研究では解決できそうにない点)
  4. アイディアのポイント(提案する手法の要点とその効果)

実際の論文では上記項目をそれぞれ一つの段落に対応させることが出来ます.また,それでは長くなりすぎるようであれば,内容的に分割できるところを探して2段落にするのも良いでしょう.もし,論文のページ数に余裕があるならば,関連研究を別の章にすることもあります.

ここでの重要なことは,対処したい課題(最終目標)論文で対処する課題(中間目標)を分けて考える,述べることです.例えば「家庭内のコミュニケーションを円滑にする」という最終的な目的に対しては,「コミュニケーションを促進するツールを提案する」ということが中間目標になり得ます.決して,「本研究では,家庭内のコミュニケーションを円滑にすることを目標とする.」とだけ書くことは止めて下さい.特に卒論ではそこまで到達できないことがほとんどですので,「~目標とし,○○を行うツールを開発する.」のように,中間目標も書きましょう.

最終章「おわりに」を書く

最終章「おわりに」は,通常,「本研究のまとめ」と「今後の課題」から構成されます.論文を書き始めてすぐに「おわりに」に取りかかるのは困難ではないかと思われるかもしれませんが,この章を書くことは容易です.いったん「はじめに」を書いてしまえば,そこで述べられた研究の要点「本研究では○○する.」をそのまま「本研究では○○した.」とすることで,本研究のまとめになります.今後の課題は,先に述べた「最終目標」について,そこに到達するために必要でも今回は扱えなかった事柄を列挙すればよいでしょう.

「おわりに」を書く上で重要なことは,「はじめに」と対応していること,そして,ネガティブな表現「○○は出来なかった」とは書かないことです.「はじめに」で「○○をします.」と述べたことは,きちんと「おわりに」で「○○しました.」となっていなくてはなりません.また,特に卒論ですと時間的な制約からするつもりだったのに出来なかったことがたくさんあると思います.しかしながら,それらを「出来なかった」とすると,読者に否定的な印象を与えてしまいます.出来なかったのではなく,「するつもりは無かった」ことにしましょう.研究本体と論文の執筆(提出)は時間差がありますので,「出来なかった」のではなく,もともと今後の課題のつもりだったということが出来るのです.

絵(スケッチ)を並べる

最初と最後が出来てしまえば,後は研究の内容を具体的に説明する間の章を書くことになるのですが,いきなり書き始める前におすすめなのが,図だけを先に作り入れてしまう書くことです.図の作り方にも気をつけないといけないことはありますが,とりあえず,ゼミの発表用のスライドなどから必要そうな図を流用し,並べて見て下さい.

図を最初に並べることのメリットは,文章のみで説明した方が良いのか,それとも図を用いた方がもっと効果的な説明が出来るのか,その見極めが付きやすくなること,そして,ページが早く埋まることです.百聞は一見にしかずならぬ百文は一図にしかずということがありますので,図で説明できるなら図で説明するに超したことはありません.また,多分卒論には目安のページ数というものが設定されていると思います.初めて書くのに30ページなどと言われても気が遠くなるかもしれません.ところが,図を入れてしまうと,それだけで数ページ増えますので,気が楽になります.

アブストラクトを書く

アブストラクトをどのタイミングで書くのかというのも,難しい問題だと思うのですが,「はじめに」を一通り書いたのであれば,このタイミングで書くことも出来ます.基本的には,「はじめに」の内容を要約すると,具体的には各段落から数文ずつひろってつなぎ合わせると,それだけでアブストラクトになります.ただし,アブストラクトではたいていの場合,最初の一文で著者の行ったこと,すなわち研究の成果について簡潔に述べることが多いです.たとえば,「本研究では○○するための○○の提案を行う.」のような雰囲気です.

アウトラインと本文を考える

順序を決める

未執筆

必要な内容を箇条書きにする

未執筆

本文を書く

未執筆

繰り返し見直す

構造とトピック・センテンス

未執筆

初出用語

未執筆

チェック・リスト

未執筆

具体的な手順

論文の書き方といってもいろいろな方法が提案されているかとは思いますが,私が近頃実践している方法をその一例としてまとめます.最近ではWordでデータを作成して投稿するという場合もあるようですが,ここでは最終的に投稿する原稿をTeXにて作成するものとします.

  1. Wordを開いてアウトライン(章立て)を作成します. 初めに章立てを考えます.基本的には最初に「はじめに」,最後に「関連研究」と「おわりに」が来るのではないでしょうか(関連研究は「はじめに」のすぐ後に来ることもあります).後は論文のメインとなる部分ですので,いくつに分けられそうかを考え,章を作ります.章より下の構造,節や小節はまだ作りません. また,Wordですので字を大きくしたり下線をつけたり,章が章として分かりやすいように修飾を加えます.
  2. 段落にタイトルをつけます. まだ,章立てしかない状態ですが,仮に段落を書くとしたら各段落はどのようなタイトルになるのかを考えます.これはキーワード程度でかまいません.例えば,「背景」や「実験の仕方」,「作ったもの」という具合です.今後,増減することになるとは思いますが,ここで書いたタイトルに含まれる内容以外は論文に入らないと考えてください.
  3. キーワードをグループ分けして,トピック・センテンスを作成します. 基本的には一つの文で,その段落内で述べたいことの概略をすべて書くようにします.先ほどのタイトル付けの説明と似ていますが,トピック・センテンスに含まれる内容以外のことは絶対にその段落に書けないと考えてください.例えば「実験の仕方」というタイトルの段落で,トピック・センテンスが「開発したデバイスを用いて,被験者に対し○,△,□を測定する実験を行った.」となっていれば,そこに実験の考察を一言でも含めてはいけません.
  4. 図を作ります. 最初はラフなものでもかまいませんので,とにかく,図を用いて説明するものと,そうでないものを明確にしておきます.また,図を出して詳しく説明するタイミングをつかんでおくことによって,どの段落を先に書くべきかという順序が徐々に判明します.
  5. 段落の内容を書きます. 分かりやすくするために.段落の内容を書く前にトピック・センテンスに色をつけると良いでしょう.段落の内容を書くときは先に述べた内容に対する注意点のほかに,センテンスの長さにも気をつけなくてはなりません.そこで,1文ごとに改行を入れることをお薦めします.そうすると,折り返しで3行くらいになると,少し一つの文としては長い,などと気づくことが出来ます.ちなみに,根拠はありませんが,私のエディタの設定は全角44文字で折り返すようになっています(Wordでもほぼ設定可能です).この設定ですと,折り返して3行は132文字ですので,1文としては少し長すぎるでしょう.
  6. 構成を再検討して,要旨(アブストラクト)を書きます. 内容を詰めて行くと次第に段落分けの誤りに気づくと思いますので,それを修正します.大体出来たところで,各段落のトピック・センテンスを集めて,それをそのまま要旨としてみます.ただし,要旨の中でもトピック・センテンスを考えて,文の順序を入れ替えたり,新たな文を追加したりします.もし,トピック・センテンスを集めても要旨とは程遠いようでしたら,トピック・センテンスの作り方や段落分けに問題があります.
  7. TeXのコマンドを埋め込みます. 表や図のコマンドをWordに直接入れてしまうようにしています.これは,すべて校正機能でミスと判断されてしまうのであまりよくは無いのですが,表の内容やキャプションなどに入力ミスがあると困りますので,それもWordにチェックさせています.章立てについてはWord文書内にコマンドを入れていません.表や図は,実際にWord文書に表や図として入れてみるのも内容を把握しやすくなるため良いかもしれません.
  8. テキスト・エディタを開き,Wordからテキスト部分をコピーします. これは単純にコピーするだけです.私はこの後のこまごまとした修正もすべてWord上で行い,TeXファイルにテキストをコピーするという手順をとっています.もし日本語校正機能があって,本文と見出しを混ぜて表示できるアウトライン・プロセッサ機能つきのTeXエディタがあればそれを使うべきでしょう.
  9. TeXをコンパイルします. これもそのままです.ただし,コンパイルすることによって分かる最終的な組版結果によって,修正が必要となる場合があります.例えば,段落の最後の行がほんの数文字にしかないときは,文字を増やすか減らすかして,論文の意味内容を悪くしない範囲で見栄えを良くします.

流れは上記のとおりですが,必要に応じて前のステップに戻ってください.

論文を書く時に気を付けたい事

卒業論文,修士論文など,論文を書く時に気を付けたい事をまとめました.私が日ごろ他人の論文を添削していて思ったことや,自分の論文でよく間違えてしまうことを忘れないためのメモです.もし,付け足すべきポイント,下の文章自体が良くない書き方になっているなど,お気づきの点がありましたら教えてください.

文章表現について
ポイント間違いの例説明
主語述語の不一致 「提案システムは品質を向上する.」 動作の主体と対象を明確にし,使う動詞が自動詞なのか他動詞なのかを判断すること.「向上する」のは「提案システム」ではなく「品質」であるから,「提案システムは品質を向上させる」もしくは「提案システムでは品質が向上する」が正しい.
回りくどい言い方 「本研究ではAを採用する.これはBとCの特徴を持つ.本節ではこれについて述べる.」 整理して,順に述べれば短く簡潔に出来る.例えば,「本節では,本研究において採用したBとCの特徴を持つAについて述べる.」と出来る.
倒置表現 「提案手法において採用した手法がAである.」 基本形SOVになっていない.「提案手法ではAを採用した.」と簡潔に述べる.例えば「Aの手法が...B手法である」や「Aの点が...Bの点である」のように同じ単語(「手法」や「点」)が2度出てくる時は何かがおかしい可能性がある.
逆接でない「が」 「温州みかんであるが,これは日本原産種である.」 「が」の位置で文を切り,「しかしながら」でつなげてみると,逆接かどうかがわかる.逆接でない「が」は絶対に使わない.また,逆接の「が」も「しかし」では上手くつながらないときに限り使う.
「すなわち」,「つまり」,「具体的には」 「Aを表示する機能を提供する.具体的にはAはBとCである.」 本当に必要な場所でのみ言い換えること.特に「具体的には」と述べる直前には抽象的な内容が述べられている必要がある.
主語が不明確 「取得したAは正しく解釈できる.」 「Aは」の部分が主語を表すように思われるが,Aは解釈の対象であるため主語ではない.主語を補った「システムは取得したAを正しく解釈できる.」が正しい.
「主に」,「基本的に」 「主にA問題に対して多くの研究がなされている.」 あいまいなようでいて意味を付け加える用語は不用意に使わない.この場合,A以外の問題に対してはあまり研究が行われていないことを示唆している.それを意図してなければ書き直す.
「,.」や「・」の使い方 「A・B・C・D」 論文の種類によるものの,基本的には「,.」を使う.列挙を意味した「・」は外国語の単語の区切りと混同する恐れがあるので使わない.また,数が多いときは記号だけを用いて列挙せずに,「AやB,C,D」のようにしたほうが良いだろう.
「考えられる」 「以上から温州みかんは栄養価が高いと考えられる.」 「られる」を受身と取ると主語が不明であり,可能ととるとあいまいである.仮に主語が著者であるなら「○○と考える.」と書くか,出来れば「○○である.」とする.「著者はそう考えることが出来る」というつもりなら,それは「そんな気がする」と同義.
「やってみた」 「そこで,Aを求める実験を行ってみた.」 「~みた」は口語表現である.また,わざわざ「~みた」と書くまでもなく,多くの研究において,行われる実験やテストはすべてが試みに過ぎず,初めから「やってみた」ものであろう.
むやみな強調表現の使用 「Aは非常に有益である.」 強調表現(「非常に」など)を用いるときは,それがあるときとないときの違いをはっきりと認識する必要がある.なんとなく,強調するのはやめること.逆に,例は,「Aは有益である.」との違いを論理的に説明できるのであれば,問題ない.
論文の構造について
ポイント間違いの例説明
初出用語 「AはBであるから,Cである.」 もし「AはBである」ことが論文の中で重要な意味を持つのであれば,この文の前にはっきりと書くこと.まだ述べていない概念が当然のように他の文に含まれて登場することの無いようにする.
トピック・センテンスが無い 例なし 段落の頭にはその段落の内容を表す文,トピック・センテンスが必要.また,段落はトピック・センテンスの範囲を逸脱してはならない.下とも関係がある.
段落分けがおかしい 「AはBである.」改段「また,AはCである.」 なんとなく表面的な読みやすさで段落を分けるのではなく,きちんと意味のつながりを考えて分ける.各々の段落にタイトルを付けてみて「AがBである」と簡潔なタイトルに出来なければ考え直す.

補足

アウトライン・エディタとしてのWord

論文を書くときには常に全体の構造を把握している必要があるのですが,たとえば卒業論文程度の長さになると,普通のテキスト・エディタで編集するのは難しくなります.そこで,私はMicrosoft Word 2007(以下,単にWordと表記)をアウトライン・エディタとして用いるようにしています.Wordを用いる利点は次の3点です.

校正機能とは,英語や日本語の入力ミス,用法ミスを入力している最中に自動的に調べ,ミスと思われる箇所に波線を表示するという機能です.この日本語の校正機能は論文を書く上で大変便利です.ただし,TeXのコマンドを混ぜて書いていると,コマンドまでチェックされて入力ミスとされたり,そのためにミスを見逃したりしてしまうことがあります.ちなみに,英語のスペリング・チェックであれば無料のソフトウェアもあるようですが,日本語のチェック機能は他に一太郎が提供しているらしいということしか知りません.

変更履歴記録機能というのは,それをオンにしておくと,既存の文書に対して行った追加,削除操作をまるで赤ペンで添削を行ったかのように表示してくれるというものです.論文を一度最後まで書いたら,あるいはその途中でも,推敲作業は欠かせません.変更履歴記録機能を使えば,編集後を編集前を比べることも出来ますし,操作を元に戻せるので試行錯誤が容易になります.また,たとえば指導教員に改版したものを見せるとき,変更箇所を改めて伝える必要が無くなるという利点もあります.

最後の,見出しと本文を同一画面で編集できるというのは,アウトライン表示と本文が完全に分かれて表示されないという意味です(Wordではアウトラインのみを別に表示することも出来ます).これは個人的な好みかもしれませんが,別れていないほうが分かりやすいような気がします.以前,このアウトラインと本文の混合表示機能のある無料のアウトライン・エディタを探したことがありますが,見つかりませんでした.

図の作り方

TeXで原稿を作っているときは基本的にEPSファイルとして図を作成するとよいようです.EPSファイルを作るための無料のソフトウェアとしてOpenOffice.orgをお薦めします.OpenOffice.orgでEPSファイルを作成する際の注意点は次のとおりです.

特定のアプリケーションに限った話ではありませんが,可能な限り論文の図に色は使いません.大抵,色をつけてもグレー・スケールで印刷されてしまいます.それを読者がコピーする可能性を考えると,コピーしやすい白黒(中間濃度なし)の方が望ましいでしょう.

参考文献