論文を執筆するときに気をつけたいこと,知っておきたいことを,これから初めての論文である卒業論文を執筆する人に向けてまとめました.いよいよ論文提出の日付も確定し,いざテキスト・エディタを開いてみたものの,どこから手を付けたらいいのか分からない人には役立つと思います.
論文のはじめに書かれる「はじめに」はその研究の目標としていること,すなわち何のための研究なのか,そして,研究として何を行い,結果としてどうだったのか,その全てが含まれます.ですので,その研究の意義や目標,課題を考えるために,研究がまとまる前に書いてみることをおすすめします.書いてみて初めて,話(ストーリー)が繋がらないことや説明の根拠がないことに気づくことがあります.早めに気づければ,追加の実験を行ったり,説明のためのお話を考えたりと,気づいたことを研究本体の改善に生かすことが出来ます.
次のような構成はいかがでしょうか.
実際の論文では上記項目をそれぞれ一つの段落に対応させることが出来ます.また,それでは長くなりすぎるようであれば,内容的に分割できるところを探して2段落にするのも良いでしょう.もし,論文のページ数に余裕があるならば,関連研究を別の章にすることもあります.
ここでの重要なことは,対処したい課題(最終目標)と論文で対処する課題(中間目標)を分けて考える,述べることです.例えば「家庭内のコミュニケーションを円滑にする」という最終的な目的に対しては,「コミュニケーションを促進するツールを提案する」ということが中間目標になり得ます.決して,「本研究では,家庭内のコミュニケーションを円滑にすることを目標とする.」とだけ書くことは止めて下さい.特に卒論ではそこまで到達できないことがほとんどですので,「~目標とし,○○を行うツールを開発する.」のように,中間目標も書きましょう.
最終章「おわりに」は,通常,「本研究のまとめ」と「今後の課題」から構成されます.論文を書き始めてすぐに「おわりに」に取りかかるのは困難ではないかと思われるかもしれませんが,この章を書くことは容易です.いったん「はじめに」を書いてしまえば,そこで述べられた研究の要点「本研究では○○する.」をそのまま「本研究では○○した.」とすることで,本研究のまとめになります.今後の課題は,先に述べた「最終目標」について,そこに到達するために必要でも今回は扱えなかった事柄を列挙すればよいでしょう.
「おわりに」を書く上で重要なことは,「はじめに」と対応していること,そして,ネガティブな表現「○○は出来なかった」とは書かないことです.「はじめに」で「○○をします.」と述べたことは,きちんと「おわりに」で「○○しました.」となっていなくてはなりません.また,特に卒論ですと時間的な制約からするつもりだったのに出来なかったことがたくさんあると思います.しかしながら,それらを「出来なかった」とすると,読者に否定的な印象を与えてしまいます.出来なかったのではなく,「するつもりは無かった」ことにしましょう.研究本体と論文の執筆(提出)は時間差がありますので,「出来なかった」のではなく,もともと今後の課題のつもりだったということが出来るのです.
最初と最後が出来てしまえば,後は研究の内容を具体的に説明する間の章を書くことになるのですが,いきなり書き始める前におすすめなのが,図だけを先に作り入れてしまう書くことです.図の作り方にも気をつけないといけないことはありますが,とりあえず,ゼミの発表用のスライドなどから必要そうな図を流用し,並べて見て下さい.
図を最初に並べることのメリットは,文章のみで説明した方が良いのか,それとも図を用いた方がもっと効果的な説明が出来るのか,その見極めが付きやすくなること,そして,ページが早く埋まることです.百聞は一見にしかずならぬ百文は一図にしかずということがありますので,図で説明できるなら図で説明するに超したことはありません.また,多分卒論には目安のページ数というものが設定されていると思います.初めて書くのに30ページなどと言われても気が遠くなるかもしれません.ところが,図を入れてしまうと,それだけで数ページ増えますので,気が楽になります.
アブストラクトをどのタイミングで書くのかというのも,難しい問題だと思うのですが,「はじめに」を一通り書いたのであれば,このタイミングで書くことも出来ます.基本的には,「はじめに」の内容を要約すると,具体的には各段落から数文ずつひろってつなぎ合わせると,それだけでアブストラクトになります.ただし,アブストラクトではたいていの場合,最初の一文で著者の行ったこと,すなわち研究の成果について簡潔に述べることが多いです.たとえば,「本研究では○○するための○○の提案を行う.」のような雰囲気です.
未執筆
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論文の書き方といってもいろいろな方法が提案されているかとは思いますが,私が近頃実践している方法をその一例としてまとめます.最近ではWordでデータを作成して投稿するという場合もあるようですが,ここでは最終的に投稿する原稿をTeXにて作成するものとします.
流れは上記のとおりですが,必要に応じて前のステップに戻ってください.
卒業論文,修士論文など,論文を書く時に気を付けたい事をまとめました.私が日ごろ他人の論文を添削していて思ったことや,自分の論文でよく間違えてしまうことを忘れないためのメモです.もし,付け足すべきポイント,下の文章自体が良くない書き方になっているなど,お気づきの点がありましたら教えてください.
ポイント | 間違いの例 | 説明 |
---|---|---|
主語述語の不一致 | 「提案システムは品質を向上する.」 | 動作の主体と対象を明確にし,使う動詞が自動詞なのか他動詞なのかを判断すること.「向上する」のは「提案システム」ではなく「品質」であるから,「提案システムは品質を向上させる」もしくは「提案システムでは品質が向上する」が正しい. |
回りくどい言い方 | 「本研究ではAを採用する.これはBとCの特徴を持つ.本節ではこれについて述べる.」 | 整理して,順に述べれば短く簡潔に出来る.例えば,「本節では,本研究において採用したBとCの特徴を持つAについて述べる.」と出来る. |
倒置表現 | 「提案手法において採用した手法がAである.」 | 基本形SOVになっていない.「提案手法ではAを採用した.」と簡潔に述べる.例えば「Aの手法が...B手法である」や「Aの点が...Bの点である」のように同じ単語(「手法」や「点」)が2度出てくる時は何かがおかしい可能性がある. |
逆接でない「が」 | 「温州みかんであるが,これは日本原産種である.」 | 「が」の位置で文を切り,「しかしながら」でつなげてみると,逆接かどうかがわかる.逆接でない「が」は絶対に使わない.また,逆接の「が」も「しかし」では上手くつながらないときに限り使う. |
「すなわち」,「つまり」,「具体的には」 | 「Aを表示する機能を提供する.具体的にはAはBとCである.」 | 本当に必要な場所でのみ言い換えること.特に「具体的には」と述べる直前には抽象的な内容が述べられている必要がある. |
主語が不明確 | 「取得したAは正しく解釈できる.」 | 「Aは」の部分が主語を表すように思われるが,Aは解釈の対象であるため主語ではない.主語を補った「システムは取得したAを正しく解釈できる.」が正しい. |
「主に」,「基本的に」 | 「主にA問題に対して多くの研究がなされている.」 | あいまいなようでいて意味を付け加える用語は不用意に使わない.この場合,A以外の問題に対してはあまり研究が行われていないことを示唆している.それを意図してなければ書き直す. |
「,.」や「・」の使い方 | 「A・B・C・D」 | 論文の種類によるものの,基本的には「,.」を使う.列挙を意味した「・」は外国語の単語の区切りと混同する恐れがあるので使わない.また,数が多いときは記号だけを用いて列挙せずに,「AやB,C,D」のようにしたほうが良いだろう. |
「考えられる」 | 「以上から温州みかんは栄養価が高いと考えられる.」 | 「られる」を受身と取ると主語が不明であり,可能ととるとあいまいである.仮に主語が著者であるなら「○○と考える.」と書くか,出来れば「○○である.」とする.「著者はそう考えることが出来る」というつもりなら,それは「そんな気がする」と同義. |
「やってみた」 | 「そこで,Aを求める実験を行ってみた.」 | 「~みた」は口語表現である.また,わざわざ「~みた」と書くまでもなく,多くの研究において,行われる実験やテストはすべてが試みに過ぎず,初めから「やってみた」ものであろう. |
むやみな強調表現の使用 | 「Aは非常に有益である.」 | 強調表現(「非常に」など)を用いるときは,それがあるときとないときの違いをはっきりと認識する必要がある.なんとなく,強調するのはやめること.逆に,例は,「Aは有益である.」との違いを論理的に説明できるのであれば,問題ない. |
ポイント | 間違いの例 | 説明 |
---|---|---|
初出用語 | 「AはBであるから,Cである.」 | もし「AはBである」ことが論文の中で重要な意味を持つのであれば,この文の前にはっきりと書くこと.まだ述べていない概念が当然のように他の文に含まれて登場することの無いようにする. |
トピック・センテンスが無い | 例なし | 段落の頭にはその段落の内容を表す文,トピック・センテンスが必要.また,段落はトピック・センテンスの範囲を逸脱してはならない.下とも関係がある. |
段落分けがおかしい | 「AはBである.」改段「また,AはCである.」 | なんとなく表面的な読みやすさで段落を分けるのではなく,きちんと意味のつながりを考えて分ける.各々の段落にタイトルを付けてみて「AがBである」と簡潔なタイトルに出来なければ考え直す. |
論文を書くときには常に全体の構造を把握している必要があるのですが,たとえば卒業論文程度の長さになると,普通のテキスト・エディタで編集するのは難しくなります.そこで,私はMicrosoft Word 2007(以下,単にWordと表記)をアウトライン・エディタとして用いるようにしています.Wordを用いる利点は次の3点です.
校正機能とは,英語や日本語の入力ミス,用法ミスを入力している最中に自動的に調べ,ミスと思われる箇所に波線を表示するという機能です.この日本語の校正機能は論文を書く上で大変便利です.ただし,TeXのコマンドを混ぜて書いていると,コマンドまでチェックされて入力ミスとされたり,そのためにミスを見逃したりしてしまうことがあります.ちなみに,英語のスペリング・チェックであれば無料のソフトウェアもあるようですが,日本語のチェック機能は他に一太郎が提供しているらしいということしか知りません.
変更履歴記録機能というのは,それをオンにしておくと,既存の文書に対して行った追加,削除操作をまるで赤ペンで添削を行ったかのように表示してくれるというものです.論文を一度最後まで書いたら,あるいはその途中でも,推敲作業は欠かせません.変更履歴記録機能を使えば,編集後を編集前を比べることも出来ますし,操作を元に戻せるので試行錯誤が容易になります.また,たとえば指導教員に改版したものを見せるとき,変更箇所を改めて伝える必要が無くなるという利点もあります.
最後の,見出しと本文を同一画面で編集できるというのは,アウトライン表示と本文が完全に分かれて表示されないという意味です(Wordではアウトラインのみを別に表示することも出来ます).これは個人的な好みかもしれませんが,別れていないほうが分かりやすいような気がします.以前,このアウトラインと本文の混合表示機能のある無料のアウトライン・エディタを探したことがありますが,見つかりませんでした.
TeXで原稿を作っているときは基本的にEPSファイルとして図を作成するとよいようです.EPSファイルを作るための無料のソフトウェアとしてOpenOffice.orgをお薦めします.OpenOffice.orgでEPSファイルを作成する際の注意点は次のとおりです.
特定のアプリケーションに限った話ではありませんが,可能な限り論文の図に色は使いません.大抵,色をつけてもグレー・スケールで印刷されてしまいます.それを読者がコピーする可能性を考えると,コピーしやすい白黒(中間濃度なし)の方が望ましいでしょう.